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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1194号 判決

控訴人

内山光隆

右訴訟代理人

宮沢俊樹

被控訴人

手塚嘉一郎

右訴訟代理人

江村一誠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決三枚目裏七行目冒頭から同四枚目表一行目末尾までを次のとおり改める。

「賃貸借契約は双務有償契約の一に属するとされるが、それは、賃貸人が賃借人に対し目的物を使物収益させる債務を負担し、賃借人が賃貸人に対し賃料支払義務を負担するのがそれぞれ相手方の債務の負担を原因とするものであり(双務契約性)、また、各当事者がその債務負担によつて被る経済的損失が相手方の債務負担、すなわち相手方に対する債権の取得によつて、補填される関係にあるものとして契約が締結されること(有償契約性)を意味し、したがつて、賃貸借契約が使用貸借契約とともに等しく貸借型契約でありながら、使用貸借契約と異なるのは、目的物の使用に対し対価性をもつ賃料の支払が約定されるところにある。もつとも、賃借人が支払うべき賃料が賃貸人の使用収益許与債務に応対する債権(右債権に基礎づけられた目的物の使用収益権能が賃借権である。)と経済的に等価値であることは賃貸借契約の要素をなすものではなく、契約締結時における諸般の具体的事情に基づいて決定された額の賃料が経済的にみて低廉なものであつても、賃借人が右賃料を支払うべきことを約諾することが相手方の使用収益許与債務の負担の原因をなし、また、相手方の右債務負担によつて生ずる経済的損失が右賃料債権の取得によつて補填されるものとして契約が締結された場合には、右賃料は目的物の使用許諾に対する対価たる性質を失わず、当該契約は使用賃貸借契約ではなく賃貸借契約であると解するのが相当である。」

(二)  同四枚目表四行目及び八行目にそれぞれ「対価合意」とあるのをいずれも「賃料支払の合意」と改める。

(三)  同四枚目裏一行目に「第二次鑑定」とある次に「の結果」を加える。

(四)  同四枚目裏一〇行目「喫茶店を建築し同年」とある部分を「本件建物を建築し(昭和二一年ころ被控訴人が本件建物を建築したこと及び昭和二三年九月二日所有権保存登記を了したことは当事者間に争いがない。)、昭和二一年」と改め、「一〇月」とある次に「喫茶店を」を加える。

(五)  五枚目表一〇行目に「七月」とある次に「一二日」を加える。

(六)  同六枚目表一一行目に「それぞれ記入し」とある次に「(もつとも昭和四一年一二月三一日の三万円の受領の記載を欠き、また、金員受領年月日の記載は必らずしも正確でない。)」を加える。

(七)  同七枚目表一〇行目に「本件土地(全面積)」とあるのを「本件土地を含む原判決添付目録第一記載の前橋市千代田町二丁目七番二七号の土地210.67平方メートル」と改める。

(八)  同七枚目裏八行目に「差はないこと」とある次に、行を改めて、左のとおり加える。

「(九) 本件土地を含む原判決添付目録第一記載の土地に対する昭和二七年ないし四三年の各年度の固定資産税額(昭和三〇年度以降は都市計画税を含む。)を本件土地の面積に按分して算出した額と被控訴人の支払賃料額とを比較すると、別紙倍率表のとおり後者は前者の1.78倍ないし4.36倍(昭和三六年度に支払つた四万円は、その前後の関係からみて二年分の賃料として支払われたものと思われる。)、多くの年度は二、三倍に達していること、」

(九)  同八枚目表三行目の冒頭から同裏二行目末尾までを次のとおり改める。

「右(一)ないし(九)の認定事実によれば、本件土地の貸借においては、通常の賃貸借契約の場合のように、契約締結当時において賃料額やその支払方法につき明示的な取決めはなんらなされていないけれども、被控訴人が昭和二一年中伯父安衛(控訴人の祖父)から建物所有の目的で本件土地を借り受け、同年四月ころ本件建物を建築し、本件建物を当初は喫茶店店舗として、昭和三七年ころ以降は住宅として使用して現在に及んでいること、被控訴人が昭和二一年以降ほぼ毎年末安衛に対し、同人が本件土地を控訴人に贈与した後は控訴人に対し、それぞれ現金または銀行振出小切手を持参または送金して支払い、昭和四七、八年度分は供託をし、安衛及び控訴人は持参または送金された現金等をそれぞれ異議なく受領したこと、右支払または供託にかかる金員等は被控訴人側において付近の土地の地代、本件土地の固定資産税等を参考にして相当と思料する額を算定したものであり、現に前記金員等は本件土地の適正地代と比べてその数分の一というような差はなく、おおむね固定資産税額の二、三倍に達しているものであること等のその後における推移に照らすと、被控訴人は、安衛及び控訴人が本件土地を使用させてくれることに対し、そのために控訴人の被る経済的損失を補填すべきものとして前記金員等を支払い、または供託してきたものであり、安衛及び控訴人もまた、同様の趣旨で右金員等(供託部分を除く。)を受領してきたものと認めるのが相当であり、他方、当初賃料についての取決めが明示的にされなかつたのは、契約が締結されたのが終戦直後のことであり、かつ、付近一帯が焼野原となつていた地域の一画の貸借であるため、経済取引の秩序が安定している時期あるいは土地の需要が比較的多い時期において締結される賃貸借契約のように、賃料額の決定が実際上必ずしも容易でなく、また、契約締結の際における重要先決事項でもなかつたこと、特に控訴人と被控訴人は伯父甥の関係にあつたため、純然たる他人間の賃貸借契約の場合のように契約締結の際賃料額の決定をやかましく問題とするような事情にもなかつたこと等の理由によるものと推察されるから、これらの諸点に徴するときは、本件土地の貸借契約は当初から賃貸借として締結されたものと認めるのが相当というべきである。なお、当事者が授受した金員等が必ずしも当該時期の適正賃料額に達していなかつたことは前認定のとおりであり、〈証拠〉によれば、本件土地につき支払われ、供託された賃料は総体的にみてかなり低廉であることが窺われるが、そのことによつて当然に本件土地の貸借契約の賃貸借性が否定されるべきものでないことは前述したとおりである。さらに、〈証拠〉によれば、かつて被控訴人が安衛あるいは控訴人のもとに持参した金員の包紙に「借地謝礼金」と記入したものがあつたことが認められるが、当事者が前記のように親戚関係にあつたことや当初の契約締結時の事情を考えると、被控訴人は控訴人側に対し取引関係に徹する立場をとらず、控訴人側が好意的に本件土地の使用を許諾してくれたことに対する感謝の念を表面に出して前記のような記載をしたにすぎないと推認することができるのであり、したがつて、前記記載形式は事の実質を左右するものではなく、かかる記載の存在によつて前記支払金の対価性を否定し、本件土地の貸借契約が賃貸借としての性質を有するものでないとすることは相当でない。」

以上の次第であるから、本件控訴は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(中村治朗 蕪山厳 高木積夫)

倍率表 〈省略〉

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